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第12話 未来への望み

Author: あるて
last update Last Updated: 2025-12-16 12:38:19

 そのころリビングでは今日もちゃっかりわたしたちが集結してライブ配信をテレビの大画面で鑑賞していた。

「まぁゆきの場合あれで普通ってのは相当無理があるわな」

「ゆきちゃんが普通ならこの世に美人なんていなくなるってもんだよね」

「万人が認める美貌」

「ゆきちゃんを眺めているだけでなんだか心が豊かになるような気がします。あの類稀なる容姿を今お見せしないのはもったいないなと思っちゃうくらいですね」

 ブラコン四姉妹のいつものゆきちゃん自慢。今日は久しぶりの歌と踊りを堪能したのだから礼賛は留まることを知らない。

「にしてもアメリカで一旦芸能活動を休止してやたらと歌と踊りの勉強ばっかしてたのは知ってたけど、さすがはゆきというかわずか数年でここまでレベルアップしてるとはね」

「歌声聞いてるだけで鳥肌やばかったもん!」

「こころにしっかり響いてきた」

「元々感受性の豊かな子ですから、楽曲に感情を乗せる方法を覚えたら人の心を震わせるようになるのも納得ですね」

「トランス状態っていうの?だいぶ入り込んで歌ってたよね」

「あいつの才能は底なしなのかね。どこまでいくのか楽しみだ」

 お姉ちゃんたちが一様にうなずく。

「ところでさ、ひよりからみんなに提案なんだけど次からはこうやってリビングで見るんじゃなくてそれぞれの部屋で見た方がいいんじゃないかと思うんだけど」

「確かに。」

「そだな。その方が落ち着いて見られる」

「アリバイ工作もしなくてすみますしね」

 なんだかんだと理由付けをしてはいるけど要するにみんなゆきちゃんの声を独り占めして自分の世界に浸りたいのはバレバレだよ。

 あと、感極まったときのリアクションを見られるのが恥ずかしいので平静を装っているから消化不良気味だというのもあるよね。

 特に何も発言はしなかったけど、ゆきちゃんの配信を見て内心一番はしゃいでいたのは実はかの姉だと思う。いつものようにニコニコしてはいるが相当なフラストレーション状態に違いない。

 その証拠により姉やあか姉より若干そわそわしてる。1人で見ていたら思い切り悶えていたんだろうな。かくいうわたしも何度叫びそうになったことか。

 結局それぞれが思うままにゆきちゃんの歌声に熱狂したいということで来週からは各部屋で鑑賞することに。

 ちなみに姉妹の部屋は年頃の女の子はプライバシーも大事だとゆきちゃんが両親と施工業者さんに直談判したおかげで、そこはさすが音楽に携わる人間と感心するほどのしっかりとした防音対策がされている。耐え切れなくなって少々大きな声を出したところで隣の部屋にすら響いたりしない。

 なにしろ自宅にスタジオを作ってしまうくらいだから音響に関しては並々ならぬこだわりがあるんだよね。そのへんの設備に関しては素材にまで口を出してたくらいだもん。

 そんなゆきちゃんが作ってくれた自分だけの空間でそれぞれが誰にもはばかることのない空間で心ゆくまでゆきちゃんの歌声を聴きたい。「ぎゃわいいぃぃ~!!」と悶えたい気持ちを他の姉妹の手前必死に我慢することなく発散したいんだよね。

 ゆきちゃんが素顔じゃなくVtuberの仮面をかぶっているからかろうじて抑えられていたようなものなのでテレビの大画面で眺めることより大事なのはスマホの小さい画面になろうと自分だけの世界にひたって思う存分デレるほう。

 次回からの方針も決まったところでより姉からさらなる要望。

「でもゆきの生歌も聴いてみたいよなぁ」

 だよね。こうやって歌を聴いちゃうともっとって気持ちになっちゃうのはよくわかる。

「それなら動画投稿の撮影の時なら見せてくれるんじゃない?ライブ配信を見られるのがイヤなんだから、収録くらいならみせてくれるでしょ」

「明日月曜だから動画投稿の日ですよね。もう収録してるのかしら」

「もう準備してるはず」

「じゃ、たぶん水曜投稿の分の収録を見せてもらえるかな」

「よし、ならお願い役はひよりな。あいつひよりに一番甘いからな」

「オッケーまかされました」

 そうこうしてるうちにゆきちゃんがリビングに姿を現した。

 証拠隠滅はとっくに完了。

 本当は歌の感想を言ってべた褒めしたいところだけど見てることがバレちゃったら絶対にへそを曲げちゃうからな。

 別にへそを曲げたゆきちゃんが怖いってわけじゃないんだけど、ずっと不機嫌状態なのはわたし達が耐えられない。

 ゆきちゃんの笑顔はわたし達にとっては酸素みたいなもんでなくなっちゃうと窒息してしまう。

「ゆきちゃんお疲れ~!ひさびさのカメラの前でのダンスはどうだった?楽しかった?」

 麦茶を注いだコップを渡しながら訪ねる。一時間近く歌って話してたんだから喉も乾いているだろう。ゆきちゃんのことならわたしも気が利くんだよね。

「ひさびさでちょっと緊張したけど楽しかったよ!ちょうど喉乾いてたんだ、ありがと!これからはペットボトルの水くらい用意しとかないといけないな」

 麦茶を一気飲みしてゆきちゃんは楽しそうにニコニコしている。よっぽど楽しかったんだろうな。

 こんなに生き生きとした姿を見てるとこっちまで嬉しくなってくる。機嫌もいいしおねだりするなら今が一番だな。

「ね、動画投稿は週何回やるの?」

 週3でやることは知ってるけどそれをわたしが知ってるのもおかしいのであえて尋ねる。

「月水金の3回だよ。水曜までの3回分はもう収録してあるから明日か明後日に金曜の分を収録しようかと思ってる」

 もう水曜の分まで収録してあるのか。さすがゆきちゃん仕事が早い。

「生配信はもう見たいって言わないからさ、その収録を見学させてくれない?ゆきちゃんの歌声わたしも聴きたいよ~!お願い!」

 ゆきちゃんにしがみつきながら精いっぱいかわいくおねだり。

「いいけど、動画のときは歌とダンスは別撮りだよ。ヘッドマイクない方がしっかり踊れるから」

「全力で歌って踊るんじゃん!余計に見たい!ね、みんなも見たいよね?」

 ちゃんと他のみんなにもパス。当然そこは全員一致で「聴きたいに決まってる」という返答が返ってくる。

「絶対聴く」あか姉にいたってはすでに決定事項みたい。ここまでみんなにお願いされて嫌がるゆきちゃんじゃないけどね。

「わかった、じゃあ明日晩御飯を食べた後に収録しようか。明日はリクエストの入ってたボカロ曲だからみんなも聴いたことあるかも。お風呂入る時間少し遅くなるけど大丈夫?」

「四人で一緒に入るから大丈夫!ゆきちゃんも一緒に入る?」

「入りません!」

「広さは十分にあるのに」

「広さの問題じゃなくってわたしは男の子ですから!」

「小さいころは一緒に入ってた」

「あか姉それ小学生のころ!もう中学二年生だよ、わたし」

「わたしは今でも全然かまいませんよ~」

「いや、そこはかまおうよ、かの姉……。ほんとにもう。今日はもうみんなお風呂済んでるよね?少し汗もかいてるしわたしも今からお風呂に行ってくるね」

「おう、いってらー。しっかり温まれよ」

 ゆきちゃんが部屋に着替えを取りに行ってそのままお風呂に行ってしまった。

「グッジョブ、ひより」

「エヘヘ、もっと褒めて」

「明日が楽しみです」

「帰ったら速攻宿題終わらせる」

「それにしても作詞作曲ってそんな簡単にできるもんでもないだろ?あいつの場合ダンスも自作だし。いくらリクエスト挟むっていってもそれで配信頻度大丈夫なのかね。」

「前にストックしてる曲どれくらいあるのって聞いたことあるけど、その時は30ないくらいって言ってたよ。今はもっと増えてるんだと思う。耳を疑ったけどすんなりできる時は2日もあればダンスまで出来上がるって言ってたしネタに困るってことはないんじゃないかな」

「マジか」

「本当に音楽の天才ですのね」

「天はゆきに二物どころか三物四物も与えた」

「その天才が今日世間にその歌声を届けたわけだな。どんな反応があるか楽しみだな」

「しょっぱなからめちゃくちゃいい曲歌ってたし絶対バズるって!だってゆきちゃんだよ」

「ゆきならきっとみんなに愛される。伝説の始まり」

「伝説ですか。ゆきちゃんなら本当に伝説になりそうですね」

 そんな話をしているうちにゆきちゃんもお風呂から上がってきたけど、そのままこれからの活躍の話で盛り上がり、日付が変わるころに帰ってきた両親に早く寝るように促されるまでみんなでゆきちゃんの未来について話し続けていた。

 誰もこれからの成功を疑っていなかったので興奮気味に話していたから、未来の話をするとゆきちゃんが少しだけ寂しそうな顔をしていることには誰も気づかなかった。

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